東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)37号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1 成立に争いない甲第三号証(願書添付の明細書)によれば、本願考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は、次のとおりと認められる(別紙第一図面参照)
(一) 技術的課題(目的)
本願考案は、原稿サイズを検出する手段と、複数のサイズの転写用紙を同時に装填できる複数の給紙台と、複数の段階に複写倍率を変換できる手段を有する複写機に関する(第一頁第一八行ないし第二頁第一行)。
複写作業の効率化を図る目的で、サイズの異なる数種の転写用紙を同時に積載する二以上の給紙台を持つ複写機、あるいは、縮小機能を持つ複写機等が出現している。このように、一つの複写機に数多くの機能を織り込むことによつて、顧客の要求を数多く満たすことができるようになつている(第二頁第二行ないし第三頁第一二行)。
しかしながら、機能の多様化に伴つて、オペレータの選択動作が増大し、操作ミスが増加する傾向があることも否定できない(第三頁第一四行ないし第一六行)。そのため、多段給紙台あるいは多段階縮小機能のような非常に便利な機能を持ちながら、操作の仕方によつては、その機能が発揮できない場合も生ずる(第五頁第二行ないし第五行)。
本願考案の目的は、多機能複写機、すなわち複数の倍率変換装置を持ち複数の給紙台を持つ複写機において、従来オペレータが行つていた操作を最大限自動化すること、及び右自動化によつてオペレータの操作を容易にし、かつ、その操作ミスを激減させて、多機能複写機が持つ機能を最大限に発揮させることにある(第五頁第八行ないし第一六行)。
(二) 構成
本願考案は、前記課題を達成するために、その要旨とする構成を採用したものである。
本願考案の構成を別紙第一図面に示されている実施例によつて説明すると、レンズ3及びミラー4は対応をとりながら移動して、原稿サイズと感光ドラム8へ結像する静電潜像のサイズとを変換するのであるが(第六頁第一七行ないし第一九行)、倍率変換のためにレンズ3及びミラー4を移動させる機構が第4図に示されている。レンズ支持体30は箱35に取り付けられているので、レンズ3の移動は箱35の移動によつて行われる。ミラー4もミラー支持体36に取り付けられているので、この支持体36の移動によつてミラー4が所望の位置に移動する。ミラー4の位置によつてミラー支持体36がマイクロスイツチ391、392、393を付勢し、レンズ3及びミラー4の停止位置、すなわち縮小倍率を検出する(第七頁第二〇行ないし第九頁第一行)。
給紙台/1~/4は、第1図に示されているように四個設けられており、それぞれA3、B4、A4、B5のカセツトが装填されている。各給紙台/1~/4には、第5図に示されているように装填されたカセツトの用紙サイズを検出するマイクロスイツチ群46が取り付けられている(第九頁第二行ないし第八行)。
プラテンカバー6には、原稿サイズを検出するセンサが取り付けられている。原稿サイズの検出方法の一例は、第8図及び第9図に示されているとおり、プラテンカバー6の内部に複数のフオトセル501、502、503が組み込まれており、またプラテンガラス2の奥側にスイツチ51が組み込まれているものであつて、プラテンガラス2上に原稿を載置し、プラテンカバー6を閉じると、スイツチ51がONとなり各フオトセル501、502、503が作動して、フオトセルから発した光が原稿面で反射し、原稿がない場合はフオトセルから発した光はプラテンガラス2を透過する。したがつて、第8図において、フオトセル501、502、503のいずれも反射光を受けない場合は原稿がB5以下と検知され、フオトセル501だけ反射光を受けた場合はA4以下と検知され、以降同様の方法によつて原稿サイズが検知される(第一〇頁第八行ないし第一一頁第八行)。
本願考案の要点である制御方法を第10図に示されている制御回路によつて説明すると、検知信号発生部60には、複写行程を制御するために必要な各種検知信号を発生する部分が含まれる。この中には、前記のフオトセル501、502、503等から成る原稿サイズ検知手段61、マイクロスイツチ群46等から成る用紙サイズ検知手段62、マイクロスイツチ391、392、393等から成る縮小倍率検知手段63など、多数の検知手段が含まれる(第一一頁第九行ないし第二〇行)。
操作部64は、通常の複写機の操作盤であつて、第2図に示されているように縮小倍率選択ボタン18、用紙サイズ選択ボタン17等が含まれる(第一二頁第一行ないし第四行)。
シーケンス制御部65は、前記検知信号発生部60及び操作部64からの信号に基づいて、オペレータの指示どおりに複写行程を実施するために各端末素子へ信号を送る制御回路部であつて、この中には、給紙動作制御回路66、光学系移動制御回路67等が含まれる。さらに、端末素子部68の各素子は前記シーケンス制御部65(「67」とあるのは「65」の誤記と認められる。)からの動作命令に従つて機能するが、本願考案に直接関係するのは、給紙動作機構69及び光学系移動機構70(すなわち、レンズ3とミラー4の動作)である(第一二頁第五行ないし第二〇行)
複写機内部の作業は、次のとおりである。すなわち、プラテンガラス2に原稿を載置し、プラテンカバー6を閉じることによつて原稿サイズが検知され、検知信号発生部60の原稿サイズ検知手段61から検知信号が発せられる。一方、転写用紙については、操作部64の用紙サイズ選択ボタン17からの信号と検知信号発生部60においてカセツト内に所望の用紙が積載されていることを示す用紙サイズ検知手段62からの信号が発せられる。シーケンス制御部65において原稿サイズ検知手段61からの信号と用紙サイズ選択ボタン17(「21」とあるのは「17」の誤記と認められる。)からの信号とを比較して光学系制御回路67を駆動し、端末素子部68の光学系動作機構70に指令を出すことによつて、レンズ3及びミラー4が所望の倍率位置へ移動する(第一三頁第一八行ないし第一四頁第一九行)。
(三) 作用効果
オペレータが必要な操作は、原稿をプラテンガラス2上の指定位置に置き、プラテンカバー6を閉じ、次いで操作盤16上の用紙サイズ選択ボタン17の中から所望のサイズを選択押圧し、複写開始ボタンを押圧するだけでよく(第一三頁第一二行ないし第一八行)、従来のように倍率を計算したり、倍率早見表から倍率を選択し倍率選択ボタンを押圧する必要がないから、面倒な計算あるいは倍率選択ボタン18の操作が不要になるのみならず、計算の間違いあるいは倍率早見表の見間違い等による操作ミスを防止できる(第一五頁第二行ないし第八行)。
なお、オペレータが複写倍率を指定すれば、倍率に対応したサイズの転写用紙を給送することも可能であるから(第一五頁第一一行ないし第一三行)、オペレータは倍率に対応する用紙サイズを選択する必要がないのみならず、用紙サイズの誤選択を防止できる(第一六頁第六行ないし第八行)。
以上のとおり、本願考案によつて、複数の給紙台及び複数段階の縮小機能という非常に便利な機能を持ちながら、操作が複雑になり操作ミスが増大する傾向にあつた多機能複写機の操作を容易にすることができる(第一七頁第三行ないし第六行)。
2 一方、引用例に審決認定の技術的事項が記載されており、本願考案と引用例記載のものが審決認定の一致点及び相違点を有することは、原告も認めて争わないところである。
3 相違点<2>の判断の当否を検討するに、倍率とは、ある数が他の数の何倍であるかの率であるから、原稿を拡大あるいは縮小して転写する場合に原稿サイズと転写用紙のサイズとの間に一定の倍率が存在することは当然である。したがつて、拡大及び縮小機能を有する複写機において、原稿サイズ、転写用紙のサイズ及び光学系の倍率(複写倍率)の三者は、そのうち二者が指定されれば残る一者が必然的に決定される関係にあることは自明の事項であり、かつ、右三者のうち原稿サイズ及び転写用紙のサイズを指定するとの構成を採用することには解決すべき技術的障害があることをうかがわせる証拠は存しないから、本願考案が要旨とする原稿サイズ及び転写用紙のサイズを指定することによつて光学系の倍率を自動的に決定させるとの構成は、当業者が何らの困難もなく想倒し得たものといわざるを得ない。
この点について、原告は、原稿サイズ、転写用紙のサイズ及び光学系の倍率のうちどの二者を指定する構成とするかはその奏する作用効果において顕著な相違をもたらすと主張し、本願考案が原稿サイズ及び転写用紙のサイズを指定する構成を採用したことによる作用効果をるる指摘している。しかしながら、拡大及び縮小機能を有する複写機において原稿サイズ、転写用紙のサイズ及び光学系の倍率のうち二者が指定されれば残る一者が必然的に決定されることが前記のとおり当業者にとつて全く自明の事項である以上、原稿サイズ及び転写用紙のサイズを指定する構成を採用することによつて奏されるであろう作用効果は、当業者ならばきわめて容易に予測し得た程度のことにすぎないというべきである。
4 なお、相違点<2>に係る本願考案の他の構成要件について検討するに、本願考案の「シーケンス制御部65」ないし「シーケンス制御部65による比較信号」について、原告は、本願考案のシーケンス制御部65の特徴はその構成にあるのではなく、二つの入力信号を比較し比較信号を出力して所定の機器を作動させる機能にあると主張する。しかしながら、シーケンス制御があらかじめ定められた順序に従つて制御の各段階を逐次進めて行く制御方法であることは周知の事項であつて、原告の右主張は周知のシーケンス制御の機能を述べているにすぎないから、本願考案の「シーケンス制御部65」ないし「シーケンス制御部65による比較信号」を格別のものと認めることはできない。
また、原告は、本願考案の「光学系動作装置70」について、光学系を所望の位置に位置付けするため通常採用されている構成と比較して格別の構成を有することを何ら主張していないから、本願考案の「光学系動作装置70」をもつて格別のものと認めることもできない。
5 以上のとおりであるから、相違点<2>に係る本願考案の構成は当業者がきわめて容易になし得た域を超えないものとした審決の認定、判断は正当であつて、審決に原告主張の違法はない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の主張は失当としてこれを棄却することとする。
〔編注1〕本願考案の要旨は左のとおりである。
プラテンガラス2もしくは自動原稿送り装置に載置された原稿のサイズを検知する原稿サイズ検知手段61と、複数のサイズの転写用紙をそれぞれ装填できるようにした複数の給紙台/1~/4と、原稿と転写用紙との倍率を複数の段階にわたつて変換する機能を有する複写機において、
ボタン操作等により指定された転写用紙のサイズ信号と原稿サイズ検知手段61からの信号とを比較するシーケンス制御部65と、このシーケンス制御部65による比較信号によりこれと対応して光学系素子を自動的に移動するようにした光学系動作機構70とから成ることを特徴とする、複写機
(別紙第一図面参照)。
〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。
別紙第一図面
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(以下省略)